「犬なんて絶対、飼いません。」
断固として母が告げた。犬の飼い方についてを画用紙に手書きし、両親の前で必死に懇願した。が、小学生低学年の拙く感情的なプレゼンテーションは、全く伝わることなく絶望的にゴミ箱行きだった。
母は兄がちびっ子の頃に犬に噛まれてから、犬が大嫌いなのである。
【お迎え時のモーイさん】
母は犬が大嫌いだったが、園芸は大好きだった。
プレゼンテーションが敗北する数日前、アメリカの有名なガーデナーであるターシャ・テューダーの番組を母と一緒に見ていた。広大な庭に美しく自由に咲く花々、木々。
自分でもガーデニングしている母は非常に感銘を受けている印象であった。
園芸に関心のない私は、庭の紹介が続く映像を綺麗だな〜程度に眺めていた。
一通り庭の紹介が終わった後、自然の小道を写した定点映像に切り替わった。
【絶賛警戒中のモーイさん、不審な目をしております】
すると、花々の影から小道を歩くコロッした茶色い犬が、トコトコ歩いてきたのである。
その姿を見た瞬間、それまで(小学生低学年)味わったことのない、なんとも表現しがたい愛しさが全身に走った。
つまり、一目惚れをしたのである。
その犬の名前はメギー。コロッコロッのウェルシュ・コーギー・ペンブローク犬である。
ターシャーが庭仕事をする時は一緒にお供をして、蛇などを追い払ったりしっかりとお仕事もするとのこと。
【初めてお家に着いてすぐ寝るモーイさん】
可愛らしい姿を披露するだけでなく、飼い主にお供して仕事までするなんて!!こりゃもう、首ったけである。この想いは誰にも言わずに秘めておこう。
番組終了直後にコーギーについて調べ、画用紙いっぱいに愛を整理していった。が、結果は、前述通り絶望的であった。
犬を飼えない失恋したような想いをしばらく引きずっていたが、時間の流れと共に自分の奥底に消えていった。
【かわいい寝顔(今も)】
それから20年以上経過した現在、何かの巡り合わせかコーギー犬を飼うことになったのである。
犬を飼う前に、知識の習得や物品の準備をしていたが、準備を固めれば固める程、自分は本当に犬を幸せにすることができるのであろうか、と不安が増幅するばかり。
しまいには、会ってもない愛犬とお別れをする日を想像して胸が苦しくなる始末である。
モーイを迎えて1年経とうとする今でもたまに同じ感情に陥る。
ただ、今となっては、抑えようとしてもどうせ湧き起こる思いなのであれば、この揺れ動く感情とも向き合って行こうと思っている。